執筆者:アリステア・スピアーズ
マイクロソフト グローバル インフラストラクチャ マーケティング 担当ジェネラルマネージャー
AI 技術やデータ集約型コンピューティングの爆発的成長に伴い、効率的かつ信頼性の高い電力供給が発展の生命線となっています。ここで、高温超伝導(HTS)という画期的な技術が注目されています。送電ロスを大幅に削減し、エネルギー効率を飛躍的に向上させるこの技術は、マイクロソフトがデータセンターの増大する電力需要に対する最適解を求め、運用の持続可能性をさらに高めるために精力的に研究を進めている分野です。超伝導体の「無損失」という特性が、電力送電を真に効率的なものへと変革します。
超伝導体は、電流が流れる際に「電気抵抗ゼロ」を実現します。これにより、電力をより効率的に送電できるだけでなく、設備の拡張も迅速に行えるようになります。マイクロソフトは、この技術を活用して送電網の強靭性を高め、データセンターが周辺コミュニティに与える影響を低減する方法を探求しています。超伝導体は、膨大な電力量を送る際にも極めて小さなスペースで済むため、よりクリーンでコンパクトな電力システムの実現に貢献します。
▲ マイクロソフト クラウド運用・イノベーション部門 副社長兼 CTO のジュディ・プリースト氏(左)と、VEIR 社の CTO であるエルハン・カラジャ氏(右)が、3MW 級超伝導ケーブルの出荷前試験を行っている様子。
この技術の導入は、クラウド上での電力配分モデルを一変させ、AI をはじめとする高負荷な需要を確実に支える基盤となります。そのためには、従来の電力設計の概念を見直す必要があります。マイクロソフトは超伝導技術のパートナー企業やシステムインテグレーターと緊密に連携し、最先端の科学を実践的なソリューションへと転換し、お客様や地域社会に価値を提供することを目指しています。
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超伝導体がデータセンターの効率と能力をいかに向上させるか
現在、クラウドインフラの配線や送電線の多くは、依然として銅やアルミニウムが使用されています。これらも優れた導体ではありますが、HTS ケーブルは電流の「抵抗ゼロ」送電を実現する点で、さらに優れた性能を発揮します。HTS ケーブルは軽量かつ細径であり、送電中の発熱や電圧降下も発生しません。この技術の要となるのは、ケーブルを必要な低温状態に保ち、マイクロソフトのデータセンターの効率的な稼働を支える拡張性の高い高可用性の冷却システムです。対照的に、銅線では電流が抵抗を受け、効率の低下や発熱を招くだけでなく、送電容量の上限を制限する要因ともなっています。一方、超伝導素材は冷却されることで、あらゆる損失や熱の蓄積を完全に排除し、送電距離の限界を根本から打破します。
▲ HTS 技術によるデータセンターのインフラ負荷の軽減イメージ
◉ なぜこれがデータセンターにとって重要なのか?
高温超伝導は新しい概念ではなく、エネルギーや交通などの分野で長年研究が続けられてきました。しかし、製造プロセスの向上と経済性におけるブレークスルーにより、ようやくマイクロソフトのクラウド規模での実用化が可能になったのは、ごく最近のことです。データセンターは限られた敷地面積で膨大な電力負荷を処理する必要があります。従来の導体では、変電所の増設か送電線の増設、あるいは設置密度の抑制という選択を迫られるというジレンマに陥りがちでした。超伝導体はこのトレードオフを打破します。物理的な設置面積を増やすことなく「電力密度」を向上させ、空間が限られる現代の施設においても、AI 時代の電力需要を満たすことを可能にするのです。
データセンター内部では、より強力な電力が直接サーバーラックへ供給され、高密度・高性能な業務負荷を支えます。HTS ケーブルは銅線よりも軽量で長距離送電も可能なため、ラック間の電力配分を最適化し、潜在的なボトルネックを解消します。この革新的なアーキテクチャのビジョンについては、すでに OCP 2025(オープン・コンピューティング・プロジェクト)サミットで共有しています。
実際の応用において、HTS は驚くべき可能性を示しています。サーバーラックへの直接給電において、HTS は電力ケーブルのサイズを 10 分の 1 以下にまで縮小可能であり、データセンター内部の電力配分において、これまでにない新たな可能性を切り開いています。
▲ 世界初となる HTS 駆動のサーバーラックプロトタイプ(上部に超伝導ケーブルが見える)のそばに立つ、マイクロソフト クラウドビジネス運用・イノベーション部門 主任インフラエンジニアのルスラン・ナギモフ氏。
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次世代の電力アーキテクチャで生産性を飛躍させる
HTS 技術は、マイクロソフトクラウドの長期的なロードマップと合致します。AI システムの拡大に伴い、電力供給が最大のボトルネックとなっています。超伝導体による電力システムの更新により、クラウドサービスの成長需要に柔軟に対応できる、より強靭なインフラを構築し、将来的にはデータセンターの姿そのものを変革する可能性さえ秘めています。
必要とされるのは、その都度インフラ全体を建て直すのではなく、動的に電力容量を拡張することです。次世代の超伝導送電線は、同じ電圧で従来線に比べて桁違いに多くの電力を送ることができます。これにより、データセンターサイト間の接続や拡張に要する期間を大幅に短縮し、世界中で高まるクラウドサービスへの需要に応えるための計算リソースの迅速な展開を加速させます。超伝導体はデータセンターと送電網の両方における根本的な変革をもたらしますが、そのためには従来の電力システムの固定観念を打ち破り、送電とデータセンター設計のパラダイムを再定義する必要があります。
「超伝導体は、発電からチップに至るまでの電力バリューチェーン全体を一変させるカテゴリーを定義する技術です。VEIR 社では、これらの新素材を活用した完全な送電ソリューションを提供し、お客様がインフラのボトルネックを克服し、より迅速に生産能力を解放して、より高い電力密度と計算密度を実現できるよう支援しています。」
ティム・ハイダー
VEIR 最高経営責任者(マイクロソフト気候イノベーションファンド 出資先企業)
03
より環境に優しい送電網、より地域に優しい社会へ
HTS システムはエネルギー損失を削減するだけでなく、送電に必要な物理的なスペースも大幅に削減します。送電網の観点から見れば、電圧の安定化や事故電流の制限機能も備えており、データセンターへの電力供給の安定性を高めるだけでなく、周辺地域の住宅や学校、病院にも恩恵をもたらします。
▲ 超伝導ケーブルはより小規模な溝での敷設が可能で、高圧架空線などへの侵襲的な依存を軽減します [出典:AMSC 社、LIPA 超伝導プロジェクト]
さらに重要なのは、この技術が電力インフラの「社会的存在感」を低減させる点です。従来の電力増強は、巨大で騒音の多い高圧架空線や大型変電所などの施設を必要としていましたが、HTS システムはより小型で静粛です。より低い電圧で同量の電力を送ることができるため、施工のための通路や安全距離の要件を減らすことができます。これは、より高いスペース効率、より短い建設期間、そして周辺コミュニティへの影響を最小限に抑えることを意味します。
「超伝導体により、コモンウェルス・エディソン電力会社(ComEd)は、現地の企業やコミュニティに干渉することなく、シカゴの送電網変電所を相互接続することに成功しました。このソリューションは、送電網の強靭性を劇的に向上させました。」
ダニエル・マッガーン
アメリカン・スーパーコンダクター(AMSC)社 最高経営責任者
世界中が石炭、天然ガス、原油の使用を減らし、炭素排出量を削減して気候変動の目標を達成することを目指す中、風力や太陽光といった再生可能エネルギーの重要性は増すばかりです。
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データセンターの未来を探る
高温超伝導技術は、マイクロソフトが描く未来のデータセンター像のほんの一端に過ぎません。クラウド需要が急増する中、最先端の冷却システムからより環境に優しい電力ソリューションまで、数々の革新的技術が連動し、より高速で、より賢く、より持続可能なインフラの構築を後押ししています。
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