ハサビス氏「AI 競争、格差はさらに拡大する」

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デミス・ハサビス氏のイメージ図

(DeepMind CEO デミス・ハサビス氏による最新深層インタビュー)

AI 競争の真の戦場は、目に見える場所には存在しない。

2026 年 4 月 7 日、DeepMind の CEO であるデミス・ハサビス(Demis Hassabis)氏は、最新の対談において、世間の科技見出しを飾る機会の少なかった「AlphaFold(アルファフォールド)」、「Isomorphic(アイソモーフィック)」、「AlphaTensor(アルファテンソル)」といったプロダクト群に目光を注いだ。

これらのプロダクトにより、かつて数年を要したタンパク質構造予測が、今や数秒で完了する。医薬品設計におけるスクリーニング作業の大半は、仮想計算環境上で完結可能となり、人類がかつて想定もしなかった新たな解法さえも生み出され始めている。

しかしながら、こうした基盤技術の突破は、わずか少数の巨大企業へと加速度的に集中しつつある。現代 AI 産業における基盤的ブレークスルーの 90% はグーグルによってもたらされた。

ツールは普及し、格差は拡大している。同じツールであっても、使う人間が増えれば増えるほど、その格差はむしろ拡大していくのだ。

第 1 節|格差は、もはや目に見える場所にはない

現在の AI エコシステムを大まかに 2 層に分類するならば、人々の認識のほとんどはいまだ第 1 層に留まっている。

第 1 層とは、目に見える「アプリケーション層」である。大規模言語モデル(LLM)による対話、AI による文章作成、画像生成、そして AI 検索。これらは参入障壁が低く、フィードバックも直感的であり、世間の話題にもなりやすいため、自然と AI の優劣を測る主な基準となっている。

しかし、この対談においてデミス・ハサビス氏が強調したのは、より深層にある「第 2 層」だ。

氏が例に挙げるのは「AlphaFold(タンパク質構造予測)」である。これは科学界が数十年にわたり苦慮してきた究極の難問、すなわち「アミノ酸配列という 1 列の文字列から、いかにしてタンパク質の 3 次元構造を正確に推論するか」という課題だ。従来、これには膨大な年月とコスト、そして極めて高い失敗率が伴っていた。

AlphaFold のようなモデルは、この長い試行錯誤のプロセスをわずか数秒に圧縮し、その予測結果を世界中の研究者に向けてオープンソースとして公開した。現在、世界で 300 万人以上の科学者がこれを利用し、既知の 2 億種類のタンパク質構造が正常に予測されている。

ある製薬業界の科学者がハサビス氏に感慨深げに語ったように、「今や、ほぼ全ての新薬開発パイプラインにおいて、AlphaFold の関与が不可欠となっている」という。

ここでの中核的な変化とは、人類の科学研究における絶対的な「出発点」そのものが、全体的に引き上げられたことにある。

かつて科学者は基礎構造の確認に膨大な時間を費やす必要があった。しかし現在、彼らはより本質的な課題、すなわち医薬品設計、疾病メカニズムの解明、気候変動適応作物の改良などへと直ちに取り組めるようになった。これらの変化はいかなる検索トレンドにも現れることはないが、科学研究のスピードを変え、いかにして突破を成し遂げるかを再定義しつつある。

同様の現象は、他の分野でも起きている。

  • エネルギーシステムにおいて、AI が送電網の運用を最適化し、効率を 30% から 40% 向上。
  • 材料科学において、AI が新合金の組み合わせを総当たりで網羅。
  • 医薬品開発において、化合物のスクリーニングと設計を実施。

かつては膨大な回数の反復実験を要したプロセスの多くが、今や仮想計算環境上で大半の一次スクリーニングを完了させ、最終段階のみを実験による検証に回すことが可能となった。

同じツールであっても、その効果は全く異なる。

「AI を既存タスクの実行効率向上のために使う者もいれば、AI を用いて『問題そのもの』を再定義する者もいる」

もはや格差は、単なる速度の問題ではない。

第 2 節|格差が決定的に開く瞬間。AI が自ら答えを見つけ出す時

前節までが「方向性」の話だとすれば、真に格差を生むのは AI 能力そのものの変化だ。

その決定的な転換点は、囲碁の盤上で訪れた。

囲碁の合法な局面数は 10 の 170 乗に達し、これは既知の宇宙に存在する原子の総数をも凌駕する。かつて学界では、コンピュータがこの分野で人類を打ち破るには、最低でもあと数十年を要すると考えられていた。

しかし 2016 年、AlphaGo が李世乭(イ・セドル)氏との対局で、第 37 手を指した。

その一手は、当初すべてのプロ棋手によって「誤り」、あるいは「不条理」であると断定された。しかし棋局が進むにつれ、人々は気づかされることになる。それは人類の囲碁史において前例のない、全く新しい手だったのだ。

これは従来のコンピュータプログラムとは根本的に異なる。過去の手法は人間の経験をプログラムに書き込み、それを実行させるものだった。対して AlphaGo の経験は、自らによる試行錯誤と探索から生み出されたものだ。

その後、この能力は極限まで押し上げられる。

人間による棋譜をすべて捨て去った AlphaZero は、真の意味での「ゼロからの学習」を開始した。ハサビス氏は、AlphaZero がわずか 1 日で成し遂げた驚異的な進化を目の当たりにしている。朝には無作為に手を打ち、昼には氏自身と対戦可能となり、午後にはグランドマスターを凌駕し、夜には人類の世界チャンピオンを圧倒するに至ったのだ。

さらに AlphaTensor においては、AI がアルゴリズムレベルでより効率的な手法を探し始め、全ニューラルネットワークの基礎演算である行列乗算の高速化さえも発見した。

AI は、自ら新たな知見を発見し始めたのだ。

この事態が生じた時、「格差」の意味合いは完全に様変わりする。相手が単に速く、正確なだけであれば、AI 企業は時間をかけて能力差を埋めることもできる。しかし、モデルがこれまでにない新たな経路を歩み始めた場合、過去の追従手法は通用しなくなる。

大規模モデルのスケーリング則(Scaling Law)が限界に近づくにつれ、単純な計算資源やパラメータ数の積み上げは、収穫逓減に直面している。この時、この種の「探索能力」を有する者が新たな参入障壁を築く。AI に新たなアルゴリズムを発明させることのできる者が、次なる競争を制することになる。

なぜなら、前回のブームによる利益は、既に掘り尽くされつつあるからだ。

第 3 節|なぜ格差は拡大し続けるのか

これまでの 2 節で AI 進化の方向性と能力を整理してきたが、次に直視すべきは、より背筋も凍るような現実だ。ツールがほぼ平等に利用可能となっている現在、なぜ個人や企業の間の格差は、むしろ加速的に拡大しているのか。

この溝は、まず技術の基盤部分に横たわっている。

現代 AI 産業を支える基盤的ブレークスルーの 90% は、Google Brain、Google Research、あるいは DeepMind によってもたらされた。これは長年の研究開発の蓄積による結果である。

オープンソースでさえも、そこには「タイムラグ」が存在する。最先端研究所の新しいアイデアが、オープンソースコミュニティによって複製されるまでには 6 ヶ月を要する。技術が急速に進化する中、この半年間それ自体が既に一つの参入障壁となっているのだ。

次に、ツール活用度の分化である。

デミス氏は次のような助言を行っている。「これらのツールに自らを没入させ、まるで超能力を手にしたかのように使いこなすことだ」と。

この言葉は表面上は学習法を説いているようにも見えるが、実際には「同じツールが、全く異なる目的で使用されつつある」ことを指し示している。

  • AI を単なる効率化ツールと捉え、コンテンツ作成や情報整理に用い、既存のプロセスをより速く行うだけの者。
  • AI を能力の増幅器(アンプ)と捉え、過去には成し得なかったタスク、例えば非技術者によるプロトタイプ構築や複雑なデータ分析を行い、物事をより良く行う者。
  • さらに一部の者は、AI を用いて「問題そのもの」を再定義し始め、科学研究への直接参加や新製品の開発経路の設計、さらには既存のワークフローそのものの変革に着手している。

最初の 2 つは「加速」であるが、3 つ目は「方向転換」である。

ハサビス氏は未来を描く際、特に「エージェント(自律型 AI)」という形態を強調した。エージェントとは、AI が「指示を待つ受動的なツール」から、「複雑な目標を自律的に推進するデジタル社員」へと進化することを意味する。目標の設定から計画の分解、経路の修正に至るまで、全てを自律的に実行するのだ。

この形態が完全に普及した時、人々が抱く「AI を使いこなせるか」という不安は、「AI を用いて結果を定義できるか」という問いへと変容するだろう。

将来、ツールが実行動作のほとんどを請け負う時代が到来した際、勝敗を分けるのは、明確な方向性を示す力、目標を設定する視野、そして中核的なビジネスシナリオに対する深い洞察力に他ならない。

技術は集中し、活用は分化する。

同じツールであっても、使い手が多ければ多いほど、その認知における溝は深まっていく

結びに

今回の対談に立ち返れば、ハサビス氏が語ったのは 3 つの事象だ。方向が変わり、能力が変わり、使い方も変わっている。

この 3 つが同時に起こる時、格差が止まることはない。

ある者が「どのツールが優れているか」を比較している間に、ある者はそのツールを用いて新たな機会を発見している。

問われるべきは「AI がどこまで進化するか」ではない。「あなたがどこに留まるか」なのである。

識自 AI

📮 本稿は AI 深度研究院によるもので、デミス・ハサビス氏の公開インタビューを翻訳・編集したものです。要約および意訳を含みます。無断転載を禁じます。

原文元URL:

https://www.youtube.com/watch?v=SSya123u9Yk

https://www.youtube.com/watch?v=C0gErQtnNFE&t=21s

出典:公式メディア/ネットワークニュース

レイアウト:Atlas

編集:Shensi(深思)

編集長:Turing(図霊)

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