Mozilla(Firefox ウェブブラウザの親会社)は現在、エンジニアのピーター・ウィルソン(Peter Wilson)氏が率いる新プロジェクト「CQ」の開発に取り組んでいます。これは「インテリジェント・エージェントのための Stack Overflow」とも呼ぶべきもので、AI エージェントが集団的知識を発見し、共有することを可能にすることを目指したオープンソースプロジェクトです。
ピーター・ウィルソン氏は、「エージェントは繰り返し同じ問題に直面する」ため、その診断と修正に不要な作業とトークン消費が生じると指摘します。CQ を利用すれば、エージェントはまず共有知識ベースに照会し、新たな解決策があればそこに貢献するという仕組みです。
現在、開発者は agents.md、skill.md、あるいは Anthropic 社製 Claude Code 用の claude.md といったコンテキストファイルを用いてエージェントを誘導していますが、ウィルソン氏は「静的な指示に依存するのではなく、時間をかけて信頼を勝ち取る動的なアプローチ」を提唱しています。
CQ のコードは Python で記述されており、現在は探求およびテストの段階にあります。ローカル環境へのインストールが可能で、Claude Code や OpenCode 用のプラグインも用意されています。このプロジェクトには、API、SQLite データベース、MCP(モデルコンテキストプロトコル)サーバーを実行するための Docker コンテナが含まれています。
アーキテクチャ文書によれば、CQ に蓄積される知識は「ローカルレベル」「組織レベル」「グローバル共有レベル」の 3 層に分類されます。「グローバル共有レベル」とは、一般公開された CQ インスタンスを指すものです。知識ユニットは初期段階では信頼性が低く共有もされませんが、他のエージェントや人間による確認が進むにつれて、その信頼度は段階的に向上していきます。
Mozilla は開発者向けの公共インスタンスをホストするのでしょうか。ウィルソン氏は「分散型共有と集中型共有、そしてそれぞれの手法がコミュニティに与える意味については、社内で議論を重ねてきた」と語っています。
「個人的には、Mozilla.ai が CQ の立ち上げを支援し、まずは共有リソースを探求したい人々のための初期の中心プラットフォームを提供することは可能だと考えています。もっとも、現実的なアプローチが求められます。ユーザー価値をできるだけ早く検証すると同時に、中央集権型サービスのホストに伴うトレードオフやリスクにも配慮する必要があるでしょう」
CQ のワークフローは、エージェント間のやり取りと人間による関与(HITL)の両方を含みます。
このプロジェクトがマルウェアコンテンツやプロンプトインジェクション攻撃の影響を受けやすいことは明白です。悪意あるタスクの実行をエージェントに指示する攻撃も想定されます。これに対する対策としては、異常検知、多様性の要件(異なるソースからの確認)、そして人間による検証(HITL)などが挙げられます。
開発者たちの間では、セキュリティ上の懸念が CQ の概念に対する主要な課題として認識されています。「素晴らしいアイデアに思えるが、起こりうるセキュリティ悪夢のシナリオを想像すると話は別だ」とある開発者は述べています。
AI エージェントに知識ベースへの信頼度スコアを付与させ、その知識をさらに他の AI エージェントが利用するという仕組みには本質的な問題が潜んでいます。AI エージェント自体が誤りを犯したり、幻覚(ハルシネーション)を起こしたりする可能性があるからです。これを監督する役割として、人間による検証(HITL)技術が重要視されています。
Stack Overflow の衰退について、ウィルソン氏は「母食い(matriphagy:子が親を食らうこと)」という表現を用いました。氏は「大規模言語モデル(LLM)は、エージェントを通じて Stack Overflow に対して母食いという過ちを犯した。今やエージェントは、自分たち自身の Stack Overflow を構築する必要がある」と記しています。
Stack Overflow コミュニティへの投稿数は現在、劇的に減少しています。同社は現在、そのコンテンツを保存するための MCP サーバーを運用しており、自社の有料製品「Stack Internal」を AI への知識提供手段として位置づけています。
なぜ Mozilla はこのような取り組みを行うのでしょうか。同団体の「State of Mozilla」レポートによれば、この非営利組織は「Web 分野で成功したのと同様に、AI 分野でも成功するよう Mozilla を再構築する」ことを目指しています。Mozilla 財団の一部門である Mozilla.ai は、AI エージェント管理用の「Octonous」や、複数の LLM プロバイダーに統一インターフェースを提供する「any-llm」といったプロジェクトを手掛けています。
Mozilla はまた、JavaScript、CSS、Web API に関する包括的なリファレンスとして広く利用されている開発者向けドキュメントサイト「MDN(Mozilla Developer Network)」も運営しています。特筆すべきは、これまでのところ MDN が AI を利用していないという点です。
参考リンク:
CQ: エージェントのための Stack Overflow: https://blog.mozilla.ai/cq-stack-overflow-for-agents/
GitHub - mozilla-ai/cq: https://github.com/mozilla-ai/cq
執筆:場長